被害者支援をわかりやすく解説!相談窓口は?トラウマケア・アプローチにはどんな心理療法がある?

2024-09-09

今回は被害者支援について解説します。
「自分には関係ないし・・・」と思いたいものですが、
「いつ」「どこで」犯罪被害に遭遇するかはわかりません。

また、実際に被害者になってしまった場合、
どのような支援やケアを受けられるのかについて、
ご存じではない方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、万が一犯罪被害に遭遇した場合に受けられる支援や、
相談窓口、さらには心理ケアについてわかりやすく紹介します。

専門家に繋がれるようにリンクも添付しますので、
必要と思われる方は積極的に専門家に相談してください。

犯罪被害者支援制度を知ろう

相談

犯罪に遭遇したいと思っている人は誰一人いませんし、
まして「自分が犯罪に巻き込まれる」ことを想像する方も少ないでしょう。

しかし、意外にも犯罪に遭遇するケースは少なくありません。
警察庁が公表している犯罪統計資料(令和5年1月〜12月分【確定値】)※によれば、
2023年度の刑法犯総数は、認知されているだけでも703,351件に上り、
犯罪が決して他人事ではないことがわかります。

では、万が一被害にあった場合、私たちはどのように対処すれば良いのでしょうか。
以下では、さまざまな支援について紹介します。

※警察庁|犯罪統計資料(令和5年1月〜12月分【確定値】)p9

被害者支援1、警察による支援

政府広報オンラインでは、自分や周囲の人が犯罪に巻き込まれた際に相談できる、
さまざまな支援を紹介しています※。

その中で第1に挙げられているのが「警察における犯罪支援」です。
主な支援内容は以下の5つ。

・犯罪被害者等への配慮及び情報提供
・精神的被害回復への支援
・犯罪被害者等の安全確保
・犯罪被害者等支援推進のための基盤整備
・国民の理解の増進

これらには、性犯罪被害相談電話窓口※や、
精神科医及び民間のカウンセラーとの連携、そして再被害防止設置の実施などが含まれます。

また、殺人などで不慮の死を遂げた犯罪被害者遺族や、
重症や大きな障害を持つに至った犯罪被害者の方には、
犯罪被害給付金や遺族給付金といった支援が受けられます。

※政府広報オンライン|決して他人ごとではありません。 犯罪被害者を支えるには?
※警察庁|犯罪被害者等施策|各都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながる全国共通番号「♯8103(ハートさん)」

支援2、裁判における被害者支援

裁判における被害者支援は主に2つ。

・損害賠償命令制度

・被害者参加制度


損害賠償命令制度とは、被害者などが被告人に対して損害賠償請求に関する審理や決定ができる制度です。
また、被害者参加制度とは、被害者などが刑事裁判に参加できる制度であると同時に、
被害者が安心して日常生活を送るための制度でもあります。

支援3、地方公共団体による支援

都道府県における各自治体でも、
犯罪被害者の方からの問い合わせや相談に対応する窓口が設置されています。
その他、地域によっては住居の提供や30万円を上限とする見舞金支給制度、
生活のための資金援助を実施する地方公共団体もあります。

お住まいの地域にどのような支援があるのか、ご存じない方も多いかもしれません。
警察庁ウェブサイトの犯罪被害者等施策では、各自治体の取り組みが掲載されていますので、
一度確認してみることをお勧めします。

警察庁|犯罪被害者等施策|地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する取組状況

支援4、民間団体による支援

ここまでは、国による支援を紹介してきました。
政策や法律等による幅広い支援があるものの、国による支援にもやはり限界があります。

そのため、民間団体による支援もあることも覚えておくと良いかもしれません。
民間団体も視野にいれておけば、周囲からの配慮も得やすく、
より身近な助けとしてサポートを受けられます。
警察庁では犯罪被害者団体の一覧を紹介していますので、
必要な方は、お近くの相談所にご遠慮なく相談してみてください。

警察庁|犯罪被害者等施策|犯罪被害者団体等の紹介

犯罪被害の相談窓口一覧

犯罪被害者支援について、おおまかに紹介しました。
被害を受けられた方は、心身ともに大変な苦痛を味わっていることと思います。
また、相談したくても、自から動く気力を失っている場合も多いことでしょう。
そのため、被害者の方の平穏な生活を取り戻す上では、周囲の方の配慮も重要です。

日本では、各都道府県警察に被害者相談窓口が設けられています。
実際に被害にあった本人だけでなく、周囲の方の相談にも対応していますので、
相談場所に迷った場合は、都道府県の警察相談窓口にご相談ください。

都道府県警察の相談窓口は、こちら👇のリンクから調べられます。
警察庁|犯罪被害者施策|各都道府県警察の被害者相談窓口

犯罪被害者に対する心理的アプローチを解説

カウンセラー

不幸にも犯罪被害に遭われた方の中には、心に大きな傷を負ってしまう方も多いです。
そのため、被害者支援においては精神科医や心理カウンセラーといった、専門家によるケアが欠かせません。

今回は犯罪被害でしばしばみられる、トラウマとPTSDについて紹介します。
併せて具体的な心理療法も見てみましょう。

トラウマついて

犯罪被害支援において、トラウマとPTSDへの理解は避けて通ることができません。
犯罪によって精神的ショックを受けると、一時的、あるいは長期にわたり心に傷を負うケースがあります。
その代表例がトラウマとPTSDです。

まずはトラウマについて見てみましょう。

トラウマとは

トラウマとは「心の傷」のことをいいます。
精神的に追い詰められたり、危機的な状況に陥ったりすると、誰しも心に強く印象が残るものです。そうした体験を「トラウマ体験」と呼び、場合によってはその後の人生に影響を及ぼすケースもあります。

トラウマは、大きく2種類に分類されます。
単回性トラウマ・・・地震や火事、交通事故などの単発で遭遇する外傷的事象
慢性反復性トラウマ・・・継続的に繰り返される外傷的事象

トラウマの症状は一般に数週間程度続くとされていますが、次第に回復するのが一般的です。
しかし、4週間以上続く場合はPTSDが疑われます。

PTSDとは

心の病として耳にする機会が多いのがPTSDです。
これはPost Traumatic Stress Disordeの頭文字を取ったもので、
日本語では心的外傷後ストレス障害と訳されています。

PTSDはその名称通り、心に強烈な傷を負った後に発症するストレス障害の1つです。
決して珍しい病気ではなく、PTSDの有病率※は1.3%であり、100人に1人が一生に一度は罹患(りかん)します。

不安、不眠、悪夢などさまざまな症状が現れ、
フラッシュバックが起きるのもPTSDの大きな特徴です。
数ヶ月で落ち着くケースが多いですが、数年経過してから症状が現れるケースもあります。

PTSDの代表的症状

・侵入症状

・覚醒・反応の異常

・回避症状

・認知・気分の異常

※有病率・・・ある一時点において、疾病を有している人の割合のこと。

心理療法について

心理療法には「トラウマ体験」に直接アプローチするものと、直接アプローチせず日常の生活を支えるアプローチもあります。

ここでは「トラウマ体験」に直接アプローチするものを紹介します。

ただし、トラウマを扱うときには、予想しない形で急速にトラウマ記憶が活性化するケースもあるため、くれぐれも自己流でトラウマ体験に飛び込んで克服しようとはなさらないでください。

心理療法1、EMDR

Eye Movement Desensitization and Reprocessing(日本語では「眼球運動による脱感作と再処理法」と訳されます)の頭文字を取ったものです。
フランシーン・シャピロ博士によって開発されました。

この方法は、トラウマ記憶をイメージしながら身体の左側と右側(両側)に刺激を与えることで、脳の情報処理プロセスを活性化し、トラウマによって停滞してしまった脳本来の力を引き出し、回復を図るものです。

トラウマとなった経験を自分の意識や、自分の人生の経験の一部として統合するプロセスを短時間で進めていきます。東日本大震災以降、テレビ番組でもしばしば取り上げられていて、一般の方にも比較的認知度が高まっているように思います。

海外でもPTSDに対して効果的とされており、活用されています。

心理療法2、持続的エクスポージャー

持続的エクスポージャー療法は、アメリカの心理学者エドナ・フォアらによって生み出された、
PTSD治療のための認知行動療法プログラムです。
治療効果が大変高く、EMDRと並んで標準的なPTSDの治療法として世界的に活用されています。

PTSDの慢性化や悪化の重大な原因として「回避」がありますが、
持続的エクスポージャーでは「回避」を中止し、少しずつ刺激に触れさせながら、
段階的に刺激に慣れるよう促します。

患者は「実生活暴露」「イメージ暴露」の2つに取り組み、
トラウマとなった刺激と向き合うことで、体験を過去のものとして理解させることが目的です。

厚生労働省|e-ヘルスネット|エクスポージャー療法
厚生労働省|持続エクスポージャー療法指導用マニュアルの作成に向けて

心理療法3、トラウマ焦点化認知行動療法

心理療法の1つ目は「トラウマ焦点化認知行動療法」です。
「トラウマフォーカスト認知行動療法」※とも呼ばれており、
おもに子どものトラウマに焦点を当てた認知行動療法です。

犯罪被害者は大人だけではありません。
とくに幼少期・少年期に受けた心の傷は、のちの人生に大きな影響を及ぼすことがあるため、十分なケアが必要です。

トラウマ焦点化認知行動療法は、子どものPTSD症状やうつ症状に特に有効とされ、
「PRACTICE」と言われる9つのプロセスを踏むことで、心の改善を目指します。

※兵庫県こころのケアセンター|TFーCBT トラウマフォーカスト認知行動療法

心理療法4、TFT

Thought Field Therapy(思考場療法)の頭文字を取ったものです。
アメリカのロジャー・キャラハン博士が発展させました。

心理的な苦痛や身体的疼痛に意識を向けながら(TFTでは「思考場にチューニングする」と言います)、所定の手順でツボをタッピングすることで、不快感を取り除くものです。

アメリカのエビデンス登録機関にも登録されており、トラウマ・ストレス関連症状、レジリエンスなど幅広い問題に対して効果が認められています。

レジリエンス・・・「回復力」「弾力」を意味し、心理学においては「精神的回復力」の意味で用いられています。

参考:日本TFT協会|TFTとは

心理療法5、ブレインスポッティング

2003年にデビッド・グランド博士が生み出した、トラウマ克服のための新しい療法です。
上記2つは認知の面からのアプローチですが、ブレインスポッティングは、脳と身体の関係性に焦点をあてた治療法です。

患者は「ある一点」を見つめ、トラウマ処理に向けた最適な脳の状態を維持します(視点誘導)。
この治療法の最大の特徴は、トラウマとなった出来事の記憶を言葉に出さなくても実践できることです。

ブレインスポッティングはPTSDの治療だけにとどまらず、
強迫神経症やパニック障害、その他スポーツにおけるパフォーマンス向上にも応用されています。

参考:BTI-J|BSPについて
   東京多摩ネット心理相談室|ブレインスポッティング(BSP)

被害者支援まとめ

日本における被害者支援や、心理療法について紹介しました。
今回紹介した支援以外にも、全国各地でさまざまな被害者支援が行われています。

とはいえ、被害者本人が相談するのは辛いケースもあることでしょう。
そのため支援には周囲の理解や配慮が重要です。
少しでも気になることがあれば、お住まいの警察署相談窓口や地方公共団体に相談してください。

なお、令和6年(2024年)年度の医科診療報酬改定により、
医療機関で公認心理師が心的外傷の患者に対して必要な支援を行なった場合に、
保険が適用されるようになりました。

そのため、メンタルで不調がある場合は、迷わず専門家に相談しましょう。
少しでも早い治療が、早期回復に繋がります。

このブログでは、学校臨床やさまざまな政策・支援について解説しています。
気になる方はホームからご自身に関連する記事をご一読ください。