EAP(従業員支援プログラム)を簡単に解説!導入メリットや利用対象は?資格は必要?

2025-05-10

近年、従業員のメンタルヘルスをケアするEAP(従業員支援プログラム)が注目を集めています。

メンタルヘルスや産業カウンセリングなどに関心がある方は、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

その一方で、

・「EAPって何?」
・「どんなメリットがあるの?」

と疑問に思われている方も多いと思います。

そこで本記事では、EAP(従業員支援プログラム)について、上記の疑問を包括的に解説します。

EAPとは?

疲れた

EAPを初めて知った方のために、まずはその始まりや役割について解説します。

ストレス社会において、EAPの役割はますます大きくなりつつあるようです。

EAPとは従業員支援のためのプログラム

EAPとは「Employee Assistance Program」の略語で、日本語では「従業員支援プログラム」と訳されています。

EAPの発端は1960年代頃のアメリカです。
当時のアメリカでは、戦争によりメンタルに不具合を起こした帰還兵がアルコール依存や薬物依存に陥り、
社会復帰できないことが社会問題となっていました。
そんな彼らを支援する目的として始まったのがEAPです。

それから時を経て、現在のEAPの主な役割は、従業員のメンタルヘルスや業務パフォーマンスを支援するためのプログラム※へ変化し、日本では2000年代から従業員の自死やうつ病の増加をきっかけに広がり始めました。

その後2006年に厚生労働省により「労働者の心の健康の保持増進のための指針」※が示され、
その中で「4つのケア」という概念が掲げられています。

EAPはこの「4つのケア」のうちの「事業場外資源によるケア」に該当します。

※厚生労働省|e-ヘルスネット|EAP / 社員支援プログラム(EAP)
※厚生労働省|労働者の心の健康の保持増進のための指針p7

厚生労働省が定める「4つのケア」を見てみましょう。

セルフケア

セルフケアとは「自分で自分をケアする」ことを意味します。
たとえば、
・心身に不調があれば無理せず休む
・リラックスできる環境を整える
・何に対してストレスを感じるかを明確にする
・適度に体を動かす
などが一例です。

これら以外にも、ストレスやメンタルヘルスについて自分で勉強するのも良い方法でしょう。

ラインによるケア

ラインによるケアとは、管理職や監督者といった立場の人が、従業員(部下)の異変にいち早く気がつくことを意味します。

たとえば、以前と比べて以下のような状況が見られる場合には注意が必要です。
・遅刻や早退、欠席が増える
・仕事のスピードや効率が遅くなった
・表情が暗くなった
・ミスが増えた
など。

こうした状況が顕著な場合には、
相談対応や職場環境のヒアリングが必要となります。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

社内や団体におけるメンタルヘルスケアの担当者が、セルフケア及びラインによるケアが適切に実施されているかを支援します。

産業医や保健師などの事業場内産業保健スタッフがいることで、外部機関とスムーズな連携が取れるだけでなく、職場復帰の支援にも繋がります。

事業場外資源によるケア(EAP含む)

メンタルヘルスケアの助言を外部の専門家に求めるケアのことです。
医療機関の他、EAPもこのケアに該当します。

またEAPには、外部に委託する「外部EAP」と社内に常駐する「内部EAP」があり、どちらも従業員のカウンセリングや、ストレスマネジメントの指導などが主な役割です。

EAPを提供する機関と企業が契約してサービスを提供する形が主です。管理職や人事担当者に対してコンサルテーションを行う場合もあり、ニーズにより活動は多岐に渡ります。

EAPを導入するメリットや利用対象は?

がっくり

ここまで、EAPについて簡単に紹介しました。
社内や団体におけるその役割は、これからさらに増加することが予想されます。

では、社内や団体においてEAPを導入するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

以下に主なメリットを5つ紹介します。

EAPのメリット1、職場の人間関係の改善につながる

EAPを活用することで、職場の人間関係の改善にもつながります。
というのも、多くの場合、職場でのストレスの原因は人間関係にあるからです。

たとえば、ストレスを抱えたまま仕事をしていては、やがて心身のバランスを崩し、本来のパフォーマンスが発揮できなくなるケースもあります。

しかしEAPが機能すれば、部署の垣根を越えた一人ひとりへのケアが可能なため、職場の人間関係が改善されることが期待できます。

EAPのメリット2、社内に広がる恐れがない

職場によっては、
・「上司に相談できない」
・「誰かに相談したら社内に広がるのではないか」
といった不安を抱えるケースもあるかもしれません。

しかしEAPであれば、そのような心配は不要です。
EAPは第3者的立場(内部EAPであっても)であり、また厳しい守秘義務が課せられるているため、周囲の目を気にすることなく安心して相談できます。

もし社内でEAPを活用できる場合は、遠慮せずに今抱えている悩みを相談してみましょう。

EAPのメリット3、生産性・効率性の向上

EAPの大きなメリット3つ目は、生産性と効率性の向上です。

というのも、メンタルが不調になると、仕事の生産性・効率性が下がります。
場合によっては、1人のメンタルの不調が、部署や組織のパフォーマンス低下にも繋がりかねません。

しかしEAPを活用できる環境が整っていれば、問題の発生を事前に防ぎ、組織全体の改善も期待できるでしょう。

またEAPは社内以外で抱える問題、たとえばプライベートな問題にも対応可能なため、日頃のメンタルヘルスの維持にも有効です。

EAPのメリット4、離職率の低下を防ぐ

事業者にとって大きな懸念の1つとして、離職率の問題があります。
というのも、離職率の高さは企業や団体の評価に直結するからです。

具体例として、厚生労働省が行った「離職率」に関する調査※を見てみましょう。
大卒の3年以内の離職率は、事業規模1000人以上の企業で26.1%、500人以上1000人未満の企業では30.7%とおよそ3割に達します。

※厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します

離職の要因はさまざまですが、総合的にみてみると「メンタルヘルスの不調による」がもっとも多いようです。

EAPが機能すれば、メンタルヘルスついて相談しやすい環境が整っているため、離職率の低下を防ぐことが期待できます。

EAPのメリット5、離職によるコストを回避できる

EAPの活用は、社員の離職による「離職コスト」の回避に対しても期待大です。

というのも、企業側は新入社員(中途採用含む)を採用する際に多くのコストをかけています。
また入社後も研修やOJTなどに費用がかかるため、社員の離職は企業にとって大きな痛手です。

たとえば、入社後にかかる費用として以下のもがあります。

・社員の教育や社内(外)における研修費用
・人事担当による人件費
・社会保険料
・福利厚生費

など。

また、社員の退職後には次の費用がかかります。

・新たな人材確保のための費用(求人広告費用など)
・在籍費用
・再度の研修費用

など。

転職エージェントを運営する「エン転職」の試算によれば、新入社員が3ヶ月で早期退職した際の平均損失額は、1人あたり187.5万円とのことです※。

もちろん上記の離職コストは、従業員の業務形態や会社規模により大きく異なりますが、いずれにしても大きなコストがかかることに変わりありません。

このような状況を未然に防ぐためにも、EAPが重要な役割を果たすことが期待されます。

※エン転職|早期離職による損失額の目安

利用対象者は?

以上、EAPのメリットについて紹介しました。
これ以外にも、メリットはいろいろありますので、また別の機会に詳しく解説します。

ここまで読むと「EAPって良いことずくめだな」と思われた方もいることでしょう。

しかしEAPは、全員がその恩恵を受けられるわけではなく、提供されるプログラムによって異なりますが、EAPの利用対象者は、おもにEAP提供機関と提携する会社や団体に所属する従業員の家族までを対象としているケースが多いようです。

また、以下のような医療行為はできません。
・診察
・病気の診断
・治療

EAPは、あくまでも職場におけるメンタルヘルスを改善するためのカウンセリングが目的であることを覚えておいてください。

資格は必要?

時間に追われる

EAPは特定の人や資格ではなくさまざまなメンタル ヘルス関係資格をもつ専門家による支援プログラムです。

たとえば、以下のような資格保有者がEAPに携わっています。

・公認心理師
・臨床心理士
・精神保険福祉士
・社会保険労務士
・キャリアコンサルタント
・産業カウンセラー

ただしEAPでは、個人のほかに、組織にも働きかけるケースも多いため、支援内容が多岐に渡り、多様なスキルが求められます。

EAPのまとめ

今回はEAP(従業員支援プログラム)について解説しました。
働き方改革の推進により、ライフ・ワーク・バランスが見直されつつある現代。
しかし職場内のストレスは、依然として従業員にとっての大きな課題の1つです。

職場環境の悪化は心身にダメージを与えるだけでなく、職場の生産性にも大きな影響が出ることが予想されます。

少しでも風通しの良い職場環境を作るためにも、EAPの積極的な活用を考えてみても良いかもしれません。

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