「個別最適な学び」とは?背景、メリット・デメリット、具体的な実践例をわかりやすく解説!
近年、教育現場で急速に注目されているキーワードの一つが「個別最適な学び」です。
ICT(情報通信技術)の普及やGIGAスクール構想の推進により、これまでの一斉授業とは異なる“子ども一人ひとりに合わせた学び”が可能になりつつあります。
本記事では、「個別最適な学び」とはそもそも何なのか、その背景やメリット・デメリット、実際の学校現場での取り組みなどを、保護者や教育関係者の方にもわかりやすく解説します。
- 「個別最適な学び」について
- 注目される背景
- 「個別最適な学び」のメリット・デメリット
- 具体的な実施例
まずは「個別最適な学び」について見てみましょう。
「個別最適な学び」とは?

「個別最適な学び」とは、子どもの興味・関心、習熟度、学習スタイルに応じた、一人ひとりに合った内容や方法で学びを進めていく教育のあり方のことです。
これにより、得意な分野では発展的な学習を進め、つまずきがある分野では自分のペースでじっくりと理解を深められるようになりました。
従来の画一的な教育方針とは異なり、ICTを積極的に利用した学習方法も大きな特徴です。
文部科学省の定義
「個別最適な学び」について、文部科学省の位置付けを見てみましょう。
文部科学省が推奨している学習体系とは、
「一人一人の子供に最適な学びを実現するため、学習履歴や興味・関心等に基づいて学びの内容や方法を柔軟に提供すること」にあります。
さらに近年では、「誰一人取り残さない教育」の充実も拡大しています※1。
これらに加え、「ICT の活用と少人数によるきめ細かな指導体制の整備により,「個に応じた 指導」を学習者視点から整理した概念」を導入したものが「個別最適な学び」です※2。
ここで重要なのは、単に「個別対応」するだけでなく、子どもの主体性や協働的な学びとも両立させる点です。
この方針は、幼児教育、9年間に及ぶ義務教育期間、高等学校、特別支援教育のあり方についても貫かれており、近年増加する外国人児童生徒への指針も含まれています。不登校、ギフテッドなど多様な学び・支援も個別最適な学びの中で捉えていくことができます。
※1|参照|文部科学省|誰一人取り残さない教育について
※2|出典|「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)令和3年1月26日中央教育審議会|p2
「個別化」と「個性化」の違い
「個別最適な学び」には、大きく分けて2つの側面があります。
一つは「個別化された学び」。
もう一つは「個性に応じた学び(個性化)」です。
前者は学力や理解度に応じて学ぶ内容やスピードを調整するもので、後者は子どもの興味や特性に合わせた学びの方向性を尊重するものです。
この二つがバランスよく機能することで、真の意味で“その子に合った学び”が可能になります。
「協働的な学び」との関係性
一方、近年では、「個別最適な学び」とともに「協働的な学び」も重視されています。
「共同的な学び」とは、クラスメイトや上級生・下級生といった学校内での関係のほか、地域の人々との交流を含めた学びの機会のことです。
さまざまな背景を持つ人々と積極的に接しながら、他者との対話や共同作業を通じて学びを深めることも、21世紀型スキルの育成には欠かせないとされています。
そのため、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の双方を総合的に充実させることが、ますます教育現場に求められると言えるでしょう。
参考|文部科学省|「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実(イメージ)
「個別最適な学び」が注目される背景
近年、「個別最適な学び」が注目されている背景には、以下のような時代変化が考えられます。その要因は多岐にわたりますが、今回は大きく3つのポイントを見てみましょう。
1. GIGAスクール構想の推進
全国の小中学生に1人1台端末が配布されたことで、デジタル教材やAIドリルの活用が進み、個別最適化が現実的に可能になったのも大きな要因です。
従来では、児童・生徒は「同じ速度」で学習するのが通例でした。
しかしGIGAスクール構想により、興味のある分野には積極的に取り組み、より深度のある教育が可能となりつつあります。
関連記事👉GIGAスクール構想とは
出典:YouTube:文部科学省/mextchannelより
2. 学習スタイルの多様化
「読むのが得意な子」「聴くほうが理解しやすい子」など、子どもによって学び方はさまざまです。
ICTの活用によって、それぞれに合った手段を選べるようになりました。
読み書きが得意な児童・生徒もいれば、話すことに才能を発揮する子どももいます。
そのため、それぞれの学習スタイルや家庭環境を考慮した学習スタイルが実現できるようになりました。
関連記事👉学びの多様化学校
3. 学力格差や不登校の増加
学力や生活環境の差が広がる中、画一的な授業では対応しきれないケースも増えています。個別最適な学びは、そうした多様なニーズに応える可能性を持っています。
たとえば、東京都が実施するVLP(ヴァーチャル・ラーニング・プラットフォーム)や、アバターを使用することで、不登校児童・生徒への登校も徐々に実施されつつあります。
ICTの発達により、多様な登校、授業形式ができるようになったのも、「個別最適な学び」を後押しした要因と言えるでしょう。
関連記事👉VLP(ヴァーチャル・ラーニング・プラットフォーム)
「個別最適な学び」のメリット

では、「個別最適な学び」におけるメリット・デメリットを解説します。
学習面が充実する一方で、これまでの体制ではカバーしきれないという問題もあるようです。
今回は、リサーチの結果から、多く見られるメリット・デメリットを紹介します。
主なメリットは以下の4点が考えられます。
- 子どもの理解度に応じた学習ができる
- 得意を伸ばしやすい
- 学びに対する自信・意欲が育つ
- 保護者にとっても安心感がある
子どもの理解度に応じた学習ができる
子どもによって、理解できるスピードや得意な分野は異なります。
個別最適な学びでは、苦手な単元はゆっくり丁寧に、得意な単元はどんどん進めるという柔軟な対応が可能です。
一人ひとりの「わかった!」を大切にできる点が、従来の画一的な授業とは大きく異なります。
得意を伸ばしやすい
興味のある分野や得意な教科を深掘りできるのも魅力。
特定の子にとっては、中学受験の対策や先取り学習がしやすくなる環境とも言えます。
学習意欲が高まり、学びが「楽しい」と感じられるようになるケースも多いです。
学びに対する自信・意欲が育つ
理解が進むことで、「できた」「わかった」という成功体験が積み重なります。
これが自信となり、さらに学びへの意欲が高まるという好循環が生まれやすくなります。
保護者にとっても安心感がある
保護者の立場からすると、我が子に合ったペース・方法で学習が進められているというのは大きな安心材料です。
「授業についていけているか不安…」という悩みが軽減されることも少なくありません。
「個別最適な学び」のデメリット・課題点
一方で、デメリットもまだまだ多いようです。
とくに現場の関係者にとっては、負担の増大が大きな課題と言えるでしょう。
- 教師の負担が増える
- ICT環境に地域差がある
- 自己管理能力が必要
- 家庭のサポートが不可欠
教師の負担が増える
一人ひとりに応じた対応をするには、教材の準備や進度管理など、従来より多くの労力が必要です。
ICTを活用しても、教員の時間的・精神的負担は無視できない課題となっています。
専門的人材の育成や配置が、今後の課題となっています。
ICT環境に地域差がある
GIGAスクール構想で整備されたとはいえ、家庭のネット環境や学校間の機器整備の差はまだ存在します。
これにより、地域や学校によって学習機会に差が出てしまう懸念も考えられます。
学習機会の公平さは、教育面において特に気を配るべき問題です。
自己管理能力が必要
個別に学ぶ機会が増えることで、子どもには「自分で計画を立てて進める力」が求められます。
特に低学年のうちは、大人のサポートが不可欠です。
この点においても、専門職の確保が早急に求められます。
家庭のサポートが不可欠
端末の操作やオンライン学習への対応など、家庭側の理解と協力も重要です。
「親も一緒にICTに慣れる」ことが求められる場面もあるでしょう。
現在の30〜40代の親世代はインターネット世代でもありますが、児童・生徒のニーズに合わせた使用法ができるかがポイントです。
具体的な実践例:各地で進む「個別最適な学び」の取り組み
全国の自治体や学校現場では、「個別最適な学び」を具体化するための取り組みが少しずつ広がっています。ここでは、小中学生を対象とした公立学校の先進的な事例を3つ紹介します。
なお、各自治体における授業改善や地域における活動については、下記の文部科学省の実践事例集をご参考ください。
参照|文部科学省|授業改善・地域内展開 実践事例集
【富山県富山市】子どもの主体性を重視する「複線型授業の実施」
富山市立芝園小学校では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の充実に向けた、積極的な取り組みを行なっています。
学習課題、学習過程、学習形態の3つの指標を数値化することで、一人一人が「自分の判断で」問題解決に取り組む「複線型授業」が注目を集めているようです。
以下の動画では、具体的な取り組みが紹介されています。
出典:YouTube:Google for Educationより
【広島県】探究的な学びで“個性と主体性”を引き出す
福山市立の一部中学校では、教科を横断した探究的な学びを導入しています。
生徒が自ら課題を設定し、資料収集・調査・発表までを一貫して行う「プロジェクト型学習(PBL)」が特徴です。
たとえば「地域の環境問題」について調べる際、理科・社会・国語など複数の視点を取り入れながら、自分の考えを言語化し発信する力も育てています。
ICTも積極的に活用されており、調査記録の共有やスライド資料の作成、オンラインでの発表など、生徒の創造力と自己表現の幅を広げる工夫がなされています。
参考|広島県公式ホームページ|PBL(プロジェクト型学習)で児童生徒は変わる!~江田島市立能美中学校区の実践~
【東大阪市】アダプティブ・ラーニングによる個別最適化
大阪市では、特に算数・数学分野で「アダプティブ・ラーニング」の手法が導入されています。
具体的にはAIドリル「Qubena」を使い、生徒が自分のレベルに合った問題に取り組めるよう設計されています。
教員はリアルタイムで生徒の進捗状況や理解度を把握し、つまずいているポイントを即座に発見。
理解が不十分な単元にはマンツーマンで補足指導を行い、得意な生徒にはより高度な問題へとステップアップを促すなど、柔軟な対応が可能です。
参考|COMPASS Inc|AI型教材「Qubena(キュビナ)」大阪府東大阪市で正式採用〜市内の全小中学校76校へ導入、約31,000人が利用〜
まとめ:これからの教育の鍵「個別最適な学び」
「個別最適な学び」は、すべての子どもが自分らしく学び、可能性を伸ばしていくための新しい教育のカタチです。
ICTの活用により技術的な基盤は整いつつあり、あとはそれをどう教員や保護者、地域が支えていくかが問われています。
本記事を通じて、その可能性と課題を理解し、子どもたちの未来にどのような学びが必要なのかを考えるきっかけになれば幸いです。
最後に、あらためて全体のポイントをまとめます。
- 「個別最適な学び」とは、子どもの興味・関心や習熟度に応じて学習内容や方法を調整する教育のあり方
- 文科省の定義では、学習履歴や興味などをもとに柔軟に学びを提供することが重視されている
- 背景にはGIGAスクール構想の推進、学習スタイルの多様化、学力格差への対応などがある
- メリットには学習の効率化、モチベーション向上、学習履歴の活用などが挙げられる
- 一方で教員の負担やICT環境格差、協働学習とのバランスといった課題もある
- 実践例として、AIドリル活用(柏市・大阪市)、ハイブリッド型授業(鯖江市)、探究学習(福山市)などがある
- 各地域ではICTと対話的学びを両立させる工夫が進んでいる
- 今後は、教員・保護者・地域が連携し、子ども一人ひとりに合った学びをどう支えるかが鍵となる
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その他の参考Webサイト
・教育新聞|「個別最適な学び」が丸わかり! 基本概念をわかりやすく解説
・先生コネクト|個別最適な学びとは? 内容や協働的な学びとの関係性、実践例を紹介
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