トラウマインフォームドケアの具体例と対象者を徹底解説!『指導』が届かない子どもの背景とは?
トラウマインフォームドケアの具体例について解説していきます。
「何度言い聞かせても反抗する」
「ちょっとの注意でパニックになる」
教育現場や家庭で、「自分の指導力が足りないのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。
神経発達症(いわゆる発達障害)と考えて配慮をしても反応が悪い。
とはいえ、大人が理解しにくい子どもの行動は「態度の悪さ」や「指導ミス」、「神経発達症(いわゆる発達障害)」ではないことも。
どちらかというと、子どもたちの脳が必死に命を守ろうとしている「生存戦略」のサインかもしれません。
神経発達症(いわゆる発達障害)のある場合であっても、表に現れない心理的な傷つきが加わっていることも多く、両方の影響により、目に見える行動の理解や対応が難しくなっていることがあります。
そこでこの記事では、いま教育・福祉現場で最も求められている「トラウマインフォームドケア」についてを解説。
明日から使える実践方法も紹介します。
- 「問題行動」の裏に隠された子どもの心理と脳のメカニズム
- 従来の「指導」がなぜ子どもに届かないのか(再トラウマ化の危険性)
- トラウマインフォームドケア(TIC)が提唱する「6つの基本原則」
- 学校や家庭で明日から使える具体的な声かけや環境づくりの例
- 子どもを支える大人(支援者)自身が燃え尽きないためのセルフケア
こちらの記事もあわせてお読みいただくと、理解が深まりますよ!
トラウマインフォームドケア(TIC)について
「トラウマ(心的外傷)」と聞くと、多くの人は大災害や重大な虐待、痛ましい事件などを思い浮かべるかもしれません。
しかし、トラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care:以下TIC)の対象者は、そうした「明らかな被害者」だけではありません。
お時間のない方は、上記の動画で内容をご確認ください。
「すべての人にトラウマがあるかもしれない」という前提
米国薬物乱用精神保健管理局(SAMHSA)の手引きをはじめ、近年の心理学・精神医学の最前線では、TICを以下のように定義しています。
「支援する側がトラウマに関する正しい知識を持ち、関わるすべての人に『トラウマがあるかもしれない』という前提で対応する支援の枠組み」
1990年代後半から進められた小児期逆境体験(ACEs)の研究では、子ども時代に経験する、
・「家族の機能不全(両親の激しい不仲、親のメンタルヘルスの不調など)」
・「日常的な心理的虐待・ネグレクト」
といった逆境体験が、将来の心身の健康や行動面に深刻なダメージを与えることが明らかになりました。
つまり、教室で荒れる子も、家で暴れる子も、日常的な「見えないこころのケガ」を負っている可能性が高いというわけです。
参考|厚生労働省|トラウマインフォームド・ケアを学ぶ
・小児期逆境体験については、厚生労働省のこちらの報告で、わかりやすくまとめられています。
・SAMHSAの手引きはこちらからご覧ください。
「What’s wrong?」から「What happened?」へ
TICを実践する上で、重要かつ大きなな変化をもたらすのが、大人側の「問いの変化(パラダイムシフト)」です。
従来の視点との違いとして、以下があげられます。
- 従来の視点: 「どこがおかしいの?(What’s wrong with you?)」=問題行動そのものを正そうとする。
- TICの視点: 「何があったの?(What happened to you?)」=行動の背景にある「痛み」を理解しようとする。
たとえば、「なぜ宿題をやらないんだ!」と問い詰めるのではなく、「この子が宿題に向かえないほど、安心を奪われている背景は何だろうか?」と想像する。
こうしたレンズの切り替えこそが、争いをケアに変える第一歩となります。
なぜ「指導」が届かないのか?トラウマインフォームドケアが紐解く脳科学からの回答
「あの子のためを思って熱心に指導しているのに、なぜ響かないのか?」
このような経験、だれでも一度はあるのではないでしょうか。。
実はその答えは、性格やわがままではなく、「脳と神経のメカニズム」にあります。
サバイバルモードに入った脳
トラウマや強いストレスを抱えた子どもは、自律神経系の働きにより、常に「周囲は敵だらけではないか」という警戒状態にあります。
脳が危険を察知すると、
・「闘争・逃走反応(激しく怒る、暴れる、逃げ出す)」、
・「凍りつき・解離反応(無反応になる、記憶を飛ばす)」
などの過覚醒・低覚醒の防衛モードに入ります。
このサバイバルモードが発動している時、脳の「論理的な思考」や「他者の言葉を理解する」前頭前野の機能は完全にシャットダウンしています。
近年では「ポリヴェーガル理論」などが有名ですが、ここでは省略します。
「耐性の窓(Window of Tolerance)」が狭くなっている
心理学では、人間が感情を適切にコントロールし、他者と落ち着いて交流できる心の領域を「耐性の窓」と呼びます。
こころのケガを負った子どもは、この「窓」が極端に狭くなっている状態です。
そのため、大人が「ちょっと注意しただけ」のつもりでも、子どもにとっては耐性の窓を突き破る「生命の危機」として感知されてしまうのです。
火事の現場で「算数のドリルを解きなさい」と言っても不可能ですよね?
同じように、安全を感じていない状態の子どもに、論理的で正しい「教育的指導」を行っても、「恐怖の雑音」としてしか処理されないというわけです。
つまり、「指導が悪い」のではなく、あの子の脳の「受け取り窓」が閉ざされている状態です。
【ポイント① 】
・「サバイバルモードの脳」:人間の神経系には危険感知センサーが備わっており、脅威を感知した際、身体が自動的に自分を守るために無意識の防衛反応します。この状態が「サバイバルモードの脳」です。
・「窓の耐性」:私たち人間の神経系には最適な覚醒ゾーンがあり、冷静に考えたり内省したりできるのは、神経系の状態が最適なゾーンにあるからこそ成立します。そのため、成長・回復を促進するためには、このゾーンにあることが重要です。最適なゾーンから上下に外れると、興奮や不安が強くなったり(過覚醒)、体験とそれに伴う感覚や感情とが切り離されてしまう現象(低覚醒)が発生し、回復効果が低い状態となります。
脅威に対する自動的な防衛反応なので、良かれと思ってした指導が「脅威」と認識され、反応的に過覚醒になるというのが暴言・暴力・逃走です。顔つき・目つきが豹変していることがよくあります。
「脅威」と認識したときに、反応的に低覚醒になった場合は「凍りつき」(フリーズする、能面になる(表情がなくなる)、全く耳に入っていない、そのときのことを覚えていない、うろついたりする)という形で現われます。
「凍りつき」現象は,自分を守るために攻撃したり逃げたりしてもどうしようもないと神経系が判断した反応で、こうしたことが頻繁に起こる場合はより深刻です。
イメージたとえば、鬼滅の刃の「〜の呼吸」は、相当な過覚醒状態にして身体の可動範囲を尋常でないレベルにあげていると考えることもできます。
ふつうは過覚醒状態だと眠れないのですが、「全集中・常中」というのは、それでも寝ていて過覚醒を普通の状態にして身体反応を高めて、超人レベルに持っていっている・・・というようにも考えられます(勝手な考察です。ご容赦ください)
トラウマインフォームドケアを形づくる「6つの基本原則」と学校での具体例

では、サバイバルモードの脳を落ち着かせ、再び「窓」を開くためにはどうすればよいのでしょうか。
SAMHSAは、TICの実践において以下の「6つの基本原則」を提唱しています。
これを学校や家庭の日常に当てはめてみましょう。
① 安全(Safety)
物理的にも心理的にも「ここは怖くない、攻撃されない」と確信できる環境を作ります。
- NGな対応: みんなの前で大声で叱責する。「逃げ場」をなくして問い詰める。
- TICの対応: 教室の隅に刺激を遮断できる「カームダウンエリア(落ち着くためのスペース)」を設ける。言葉だけでなく、「今日の予定表」を視覚的に提示し、先の見えない不安(恐怖)を取り除く。
② 信頼と透明性(Trustworthiness & Transparency)
隠し事をせず、見通しを持たせることで「裏切られない」という感覚を育みます。
- NGな対応: 「あとでいいことがあるから」と誤魔化す。突然ルールを変える。
- TICの対応: 予定の変更はできる限り早く、理由を添えて伝える。誰が、どの情報を知っているか(先生間でどう共有しているか)を子どもに正直に話す。
③ ピアサポート(Peer Support)
「同じような痛みを持つ者同士」の繋がりが、回復の大きな力になります。
- NGな対応: 問題を抱えた子を「特別扱い」して周囲から隔離しすぎる。
- TICの対応: 子ども同士の緩やかな助け合い活動を促す。保護者に対しても、孤立を防ぐために同じ悩みを持つ親の会(ピアグループ)などの情報を提供する。
④ 協力と互恵性(Collaboration & Mutuality)
「指導する側(強者)」と「される側(弱者)」という権力勾配を平準化し、パートナーとして関わります。
- NGな対応: 「私がルールだ」「言う通りにしなさい」と上から管理する。
- TICの対応: 「先生はこう思うけど、あなたはどうしたら上手くいくと思う?」と、解決策を一緒に考える。支援の計画に本人の声を必ず入れる。
⑤ エンパワメント・声・選択(Empowerment, Voice, and Choice)
トラウマ体験によって奪われた「自分の人生をコントロールする感覚(自己決定権)」を取り戻させます。
- NGな対応: 全員に同じペースで、同じ課題を強制する。
- TICの対応: 「やりなさい」を「AとB、どっちのプリントから始める?」に変える。休むタイミングを自分で決めさせる。小さな「選べた」「できた」を承認し続ける。
⑥ 文化・歴史・ジェンダーの問題(Cultural, Historical, & Gender Issues)
ステレオタイプや偏見を持たず、その子が持つ固有の背景を丸ごと尊重します。
- NGな対応: 「男の子なんだから」「普通の家庭ならこうするはずだ」という価値観を押し付ける。
- TICの対応: その子の家庭文化、ルーツ、性自認などを深く理解し、学校の「普通」を押し付けることで新たな傷を作らないよう配慮する。
参考|トラウマインフォームドケアをもっと知るために-TICガイダンス-|厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)「精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究」研究班
トラウマインフォームドケアの学び方:支援者が知っておくべき「4つのR」
TICは特定の「心理療法」や「資格」というより、組織全体で共有すべき「文化」や「レンズ」です。
TICを組織に根付かせるためのプロセスとして、SAMHSAは「4つのR」をあげています。
- Realize(気づく・理解する): トラウマが行動や心身に広範な影響を及ぼしている現実を理解する。
- Recognize(認める・認識する): 目の前の子どもや、その親、あるいは同僚のサインから「トラウマの兆候」を認識する。
- Respond(応じる): TICの原則を、学校のルール、声かけ、環境整備など、あらゆる実践に統合して対応する。
- Resist re-traumatization(再トラウマ化を防ぐ): ★最も重要
一般的に、この4つのRの視点をもつことを、「トラウマのメガネで(子どもを)見る」と言います。
そのなかでも注意すべきは「再トラウマ化の防止」です。
たとえば、「あの時、本当は何があったの?」と無理に聞き出そうとしたり、威圧的に叱りつけたりする行為は、子どもに「過去の恐怖」を再体験させ、こころの傷をさらに深くえぐってしまいます。
思いがけず、支援が新たな暴力になる可能性も考えられます。
まずは、これら「4つのR」の視点を知ることからでも始めてみましょう!
こども家庭庁では、支援者用ガイドを提供しています。
👉こども家庭庁|支援者用ガイド
そのほか、大分県中央児童相談所におけるトラウマケアの取組なども、こども家庭庁で取り上げられています。
モデルケースとしてご参考ください。
トラウマインフォームドケアの解説まとめ
日々、傷ついた子どもたちと最前線で向き合っている先生方や保護者の皆様。
この記事のポイントは、「やり方が間違っていた」ということではありません。
むしろ、あの子の痛みに寄り添おうと必死にもがいてきたあなたの努力を、脳科学と心理学の「正しいレンズ(TIC)」で最適化してほしいという願いです。
支援において忘れてはならないのが「二次的トラウマ(共感疲労)」の存在です。
トラウマを抱えた子どもの壮絶な痛みや、ぶつけられる怒りの感情を日々受け止めていると、支援者自身の心身もすり減り、やがて燃え尽きてしまいます。
「私一人がなんとかしなければ」と抱え込む必要はありません。
子どもに「安全」を提供するためには、まず支援者である大人の心が「安全」でなければなりません。
本記事の総括とポイント
- 問題行動はSOS: 「態度の悪さ」ではなく、トラウマによる脳の「生存戦略(サバイバルモード)」と理解する。
- What happened?の視点: 「何がおかしいのか」ではなく「何があったのか」へパラダイムシフトする。
- 6つの原則を実践: 「安全・信頼・ピアサポート・協力・選択・文化の尊重」を日常の関わりに落とし込む。
- 再トラウマ化を防ぐ: 威圧的な指導や無理な聞き出しなど、支援が新たな傷にならないよう注意する。
- 支援者のセルフケア: 大人の「心の安全」を確保するため、一人で抱え込まず専門家(スクールカウンセラーなど)や組織と連携する。
トラウマインフォームドケアは、傷ついた子どもを救うだけでなく、彼らに関わる「あなた」自身をも守るための、科学的なアプローチであることも、理解しておきましょう!
【ポイント②】
かかわる大人にも神経系があり、子どもの反抗的(に見える)言動や予想できない反応、無視などに対して脅威を感じるケースも。それに対して反射的に防衛反応も発動します。それは当然のことで、脅威を感じている自分を認識して、自分をいたわることが大切です!より詳しく知りたい場合は下記などを読んでみることをお勧めします(Amazonのリンクに飛びます)
・トラウマセンシティブスクール:安心して学べるやさしい学校づくりの理論と実践 岩切昌宏・瀧野揚三 (監修) 福村出版 2025年
・学校におけるトラウマ・インフォームド・ケア:SC・教職員のためのTIC導入に向けたガイド 遠見書房 2023年
・トラウマインフォームドケア:“問題行動”を捉えなおす援助の視点 野坂祐子 日本評論社 2019年
・実践トラウマインフォームドケア:さまざまな領域での展開 亀岡智美(編)日本評論社 2022年
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